越境するデザイン──コンゴ民主共和国 アカデックス小学校

松原弘典

第2回 建築は真剣につくる


2010年の竣工写真、右が第一教室棟(2009年)で左が第二教室棟(2010年)

コンゴでの生活

コンゴには2008年から毎夏、慶應義塾大学SFCの教員・学生グループが毎年渡航している。建設が本格化した2009年夏からは、松原研・長谷部研あわせて15人前後の日本人が、2週間合宿生活をしながら建設や教育ワークショップを実施してきた。現地は電気の供給が不安定で水道は通っていないので、建築・教育活動以外の、人間生活を営むための様々な準備までを日本でしてから渡航に臨む。黄熱病注射を打ち、食糧や医薬品の持参分担を割り振り、寝袋を持参するなどの準備を要する。到着後もろうそくの灯の元で暮らし、水は自分たちでリヤカーを引いて汲みにいく。

滞在中はアカデックスの隣にあるベデロ氏の自宅に、寝袋を敷いて寝泊まりする。食事は朝昼を自炊し、夜は現地の協力者に準備してもらっている。また市内での移動は公共交通機関が未発達なので、ミニバンをチャーターして利用している。空港から現場への送迎のほか、滞在中にしばしばキンシャサ市内に出て現地大学や教会と交流するので、その時にこうした手段を用いる。

毎年の夏の渡航はすでに2回実施され、これからあと向こう4年は実施されるので、今ではあるペースが出来上がっている。春学期開始の4月にコンゴに渡航したい履修者を集めて準備作業が始まり、その夏に施工する屋根の設計を行なう。壁の形状はほぼ毎年同じで、建物の配置も最初の年に決めた中庭型なので、毎年のチームは屋根の設計にのみ集中することができる。キンシャサで入手可能な木材の寸法(毎年すこしずつ状況が変わる)をもとに、前の年までの教室の使用状況をヒアリングしながら、新しい屋根の設計を進める。途中で鈴木啓氏にも構造や施工方法について検討をいただいて、詳細な図面や、現地の施工協力者にも分かってもらえるアクソメ図などを作成する。最終的には7月末までにSFC構内で1:1の屋根モックアップを作成し、構造上の強度や施工手順を実際に確認して渡航に備える。また、夏の渡航の後の9月末から始まる秋学期には、実施した校舎の竣工図を作成し、その年に現地の建設で学んだ事実をヴィジュアルなパネルにまとめる。これを毎年11月に六本木ヒルズで行なわれるSFCのOpen Research Forumにて展示し、広く成果を学外向けて発表する。こうして本プロジェクトに参加する学生は、アフリカの小学校の校舎の設計施工を通じて、構造的実現性を考慮した詳細な設計図の作成、現場の施工によるその検証、展覧会での展示物の作成などを学習する機会を得ることになる。また建築を実際に使用する子供たち、それを小学校として運営するコンゴの現地スタッフと接触することで、建築を作ることの真剣さ、面白さ、やりがい、難しさなどを実際に知ることができる。

真剣さの交流

このプロジェクトの参加者は、図面を描いたり施工に参加したりすることで、建築設計の現実的なプラクティスを体験できるわけだが、それ以上に重要な機会を得ることができる。それはコンゴの子供たちや現地スタッフと接触することで得られる、建築に対する使用者の真剣な思いを知るという機会である。

コンゴはまだこれから成長してゆく段階にある国家であり、政府の教育福祉に対するサービスは全く整っていない。小学校は私立校しかなく、教科書はヨーロッパで出版されたアフリカ向けの粗末なものが流通しているのみだ。一方で、内戦が終わってから人口は増加傾向にあり、親の子供に対する教育熱は高い。我々は多くの学校を見学したが、どれも暗くて粗末な建物でできており、とにかく子供たちを収容することで精いっぱいという感じのものであった。それでも多くの親が学費を払って子供を私立校に通わせているという現実がある。

こうした状況のもと、我々は現地にある建材だけで、なるべく明るくて開放的な建物を、自分たちの手で作ろうとしている。ACADEXで学ぶ子どもたちは学校のそばに住んでいるので、毎年夏の建設期間には子供たちもやってきてそれを見たり手伝ったりする。そうした交流は、建設する側、使用する側双方がよく理解しあえる機会になる。また現地の学校運営のスタッフも建設期間中は夏休みにも関わらず現場にやってきて、子供と一緒に日本から持ってきた教材や遊具を用いてワークショップをする。校舎が実際に使われているのを見て、建設する側は自分たちの建物になにが求められていて、どこをどう直すべきなのか真剣に考えるようになる。

顔の見える相手に向かって直接建設すること、そしてその建設後の状況を目の当たりできること、こうした状況が建設する側に一種の真剣さを要請するのだと思う。このプロジェクトで学生は、建築を作ることの真剣さ、面白さ、やりがい、難しさなどを——頭で理解するのでなく皮膚感覚的——実際に知ることができるのだ。


ある日の松原研の打ち合わせ風景


第二教室棟屋根の上での松原研とコンゴ人のメンバー


現場でのコンゴ側との打ち合わせ風景


住んでいるところ。蚊の少ない乾季だが、蚊帳で囲われて眠る


トイレの雨水をタンクに自分たちで汲んでいるところ


移動で借り上げるミニバン。これにぎっちり詰めて乗る。
公共交通機関が未発達なので自前で車を運転手つきで借りる。ぼろぼろだけど


到着した夜のディナー。電気のない、ろうそくの明かりもロマンチックなもんです


ある日の食事。ベルギーの植民地だったコンゴはビールとパンはおいしい

撮影:落合賢

本田英郎(ほんだ・ひでお)
文化学院クリエイティブ・メディアセンター センター長。編集者。
松原弘典(まつばら・ひろのり)
建築家、北京松原弘典建築設計公司執行董事、慶應義塾大学SFC准教授。1970年東京都生まれ。1997年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。1997−2001年(株)伊東豊雄建築設計事務所勤務。非常建築研究所、北京大学建築学研究中心などを経て2005年北京松原弘典建築設計公司設立。2005年「中関村図書ビル内装」でid+c最佳設計賞、2008年「成都華林小学」でJAPANプロジェクト国際賞・中国建築伝媒賞、2009年「コンゴ民主共和国アカデックス小学校」でSD賞。著作に『中国でつくる 松原弘典の建築』(TOTO出版、2007年)、『北京論──10の都市文化案内』(コーデックス・アーカイヴス&パブリッシング、2008年)。最近は中国、日本、コンゴでプロジェクトを進行させている。